夜の世界は「情」の世界

もう10年以上前のこと、風俗業の片隅で生きていた俺に、22歳の知り合いの女から電話があった。

その女が19歳の頃に俺と知り合い、一時期はセフレ関係になっていた。その頃の俺は人生の中で一番太っていて、黒いシャツをはだけて着ては乱暴な言葉づかいをし、回し女にちんぽをしゃぶらせない日は1日たりともなく、喧嘩を売ってくる男には平気でバットで殴り腕や脚の骨を砕いてやるような、そんな人間だった。

 

俺はエロの業界で一度も挫折を味わったことがなかった。それは今もそう。俺はエロの才能があった。エロに関係する仕事は全て上手くいった。昼の仕事がボロクソで屈辱しかない時期も、夜の世界では神がかっていた。自分で言うかって話なんだけど、謙遜して言っても、俺は天才だと思った。

 

そんな俺に、22歳の元セフレがこう言う。

「彼氏とデリヘルを始めたいと思うんだ。アキラにアドバイスを貰いたいから、彼氏と一緒に言っていいかな」

「・・・ああ、彼氏、ね。」

最近付き合い始めた彼氏らしかった。

まあいい。

「来いよ」俺は言った。

 

翌日、2人がやってきた。事務所には部外者を入れない流儀だったので、近くのファミレスで会った。ハンバーグを焼いた脂の臭いが充満しているような店だ。

そこで俺は、どういう事業計画なのか聞いた。でもさ、風俗で大事なのは事業計画じゃないんだけどな。

彼氏は結構出来る男らしくて。当時35歳くらい。びっくりしたことに事業計画書と書いた分厚い資料を持ってきていた。あー・・・と俺は思ったけど、仕方なくペラペラとめくる。いろいろマーケティング用語を駆使して書いていた。キャッシュポイント、クロスセル、アップセル、会員ビジネス・・・

 

1分でチラチラ見て、俺は言った。

「風俗ね。やめときな。むいてないよ」

 

事情は聞いていた。もともと外資系コンサルで働いていた彼氏だったけど、ある事件で失脚し、どういうわけか彼女と出会ったというわけだ。彼ほどの能力があれば、風俗では敵なしだと思うんだけど。それが恋人である彼女の評価だった。

 

俺が向いてないと告げると、びっくりしていた。すいません、出直します、資料を作り直すのでまた見て頂けますか?彼氏はそう言った。

「それは構わないよ」俺はそう言うと、がんばれよって言いながらそそくさと店を出てきた。それから二度と会うこともなく、どちらからの電話にも出ることもなかった。

 

まあね、優秀なのは分かる。でも、向いてない。風俗では一瞬たりとも成功できない。絶対に成功できないから、努力すら止めたほうがいい。

 

彼ら2人が分かっていないのはね、夜の仕事は、特に風俗は、「情の世界」だってこと。マーケティングとかの理屈の世界じゃないんだよ。

風俗嬢という女のことを、きっときみは理解出来ないだろうよ。

 

風俗嬢って言うと、どんな人達だと思う?きっと、お金で割り切ってビジネス意識の強い、冷静な女とか?仕事と普段の自分を完全に分けて生きている女?借金とか何か事情がある女?料金や収入で店を渡り歩くプロ?

きっとそんな風に思ってるだろうね。それも間違いではないよ。でもごく一部の表面的な個性に過ぎない。本質とは大きく離れてるんだよ。

 

風俗の世界は情の世界なんだ。男の世界の理屈とは遠くかけ離れた世界だよ。

 

きっと男同士ならこう言えば、モチベーションが上がるだろう。「みんな、力を合わせて頑張ろう!みんなでがんばって収入あげて金持ちになろう!」

とか。あるいは

「夢はなんだ?ベンツか?いつ買うんだ?それ絶対に叶えよう!」とか(笑)

 

それを風俗嬢に言えばいい。多くはこう返してくる。

「うぜー・・・」

 

え?おまえ月収200万円あるじゃん、なんでそんな冷めてるの?って男は思ってしまうよ。仕事頑張るのは自分のためじゃん、自分の目標だけを見て頑張ればいいじゃん、みんなでがんばってみんな金持ちになろうって、それダメなん?

 

残念ながら、女性だけのチームって、そういう「目標を目指しましょう」ノリは無理なんだよね。理屈では分かる。でも、それでやる気になる女はほとんどいない。

これは俺の想像なんだけど、男ってDNAの中に、遠くの目的地に向かって歩いて行くっていう本能が隠れてるんだと思う。でもそれは女にはない。遠くに行って帰ってくる男を待っているように塩基配列に刻まれてるのかもしれない。あくまで感覚の話だけど。

 

俺のチームではその言い方はしてなかった。俺は18歳から夜の女を知っていた。

風俗嬢がモチベーションを下げてしまったとき、たとえば出勤してこなくなったとき、俺が言ったのはこうだった。

 

「○○さ、俺、金稼ぎたいんだ。金が必要なんだ。すごく困ってる。だから、俺のために頑張ってくれないか?俺は絶対復活したいんだ」

 

情けないセリフにしか聞こえないよね。でも必ず風俗嬢はこう言ってくれた。

「分かった。アキラのために頑張るね」

 

風俗嬢が気持ちよく働けるように、俺はありとあらゆることをした。遠くに出張に行った時はお土産を買う、夏はアイスを買ってくる、お金が足りないという子には金を貸す、毎日「可愛いね」って褒める、髪を切ったら誰よりも先に気づく、トラブったら俺が矢面に立つ、女が悪いと分かってるトラブルでも女を100%庇う、NGにしなくてもいい客をもNGに葬り去る。いろいろ。

 

風俗嬢は、一般的な女性よりもずっと「女性性」が濃縮された性格をしていることが多い。母性本能というと少し違うんだけど、「女」であることが割と濃厚に性格に出てる。だから風俗嬢は少し間違うと、DV彼氏に引っかかってしまう、彼氏の借金を肩代わりして金を無くしてしまう、客に金を貸してしまったり(笑)

 

いくら金を稼いでいようと、目標必達型の性格はしてない。いや、目標をはっきりと言える子でも、根本にあるのは、「ボスのために頑張る」っていう情の部分なんだよ。

 

世の中、個人プレーをする仕事では多かれ少なかれこれが言えるよね。

風俗然り、営業しかり、販売しかり。美容師もそうかもしれない。コンサル、自営業もそう。女が1人で戦ってくる仕事では、モチベーションは収入とか地位とかそういう自分で完結したものでは上がらない。必ず、「尊敬する誰かのため」っていうのがないと、戦う前に、仕事に来なくなる。

オーナーのため、上司のため、社長のため、師匠のため。女は目標の力では動かない。

 

※しかし、夫のためというのはなかなかない(笑)彼氏のためもない。その群れのボスのため、っていうが大切で。

 

女性性が強い女の群れの中では、しばしば間違いも起きやすい。群れの中でもひときわ情が強いやつが、ボスと個人的にできてしまう。恋愛感情と見間違えやすいんだよな。ストレスの強い職場環境であればあるほど、ボスや上司への忠誠心が強まっていき、それが恋愛だと思ってしまう。

 

大学時代に仲良かった彼女が、就職したらなかなか会えなくなってしまい、半年もたたないうちに電話で別れを告げられるとか、経験ある男も多いと思う。これは彼氏に飽きたのではなく、新しい環境でストレスがちょっとかかったとき、その群れのボスへの忠誠心が強まり、彼氏の価値がどんどん消えていくからだよ。

ボスと恋愛感情になるわけじゃないけど、本能的に彼氏は不要になる。

 

風俗のチームでは、ボスは強く尊敬できるオスであることが絶対必要。しかも率先垂範でみっともなくもがく姿を見せながら、強い言葉でリーダーシップを示すこと。誰よりも「あなた」の幸せを考えていると表現すること。

 

アキラのために頑張るよ。

 

もしそれを男が言ったら、男は怒るだろう。俺のためじゃねえ、自分のためにやれよ!って。それが男の論理だから。

 

風俗嬢のように女の濃縮果汁版は違う。

誰かのために頑張る。だからそれを認めて欲しい。

アキラのために頑張る。男の役割は、そう言ってもらえるように挺身することなんだよ。

 

そういう「情」の部分を理解できないやつは、どう頑張っても一生、女から支持されない。