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アップデートしないと、あんた死んでくよ

ガキの頃から、別れと拒絶、そして徹底した無関心の中で育った俺にとって、コミュニケーション能力はサバイバルするために絶対必要なものだった。

 

たった8歳のガキでも、この世の中にはこの俺に関心を持ってくれる人など誰もいないと理解してた。俺が黙っていたら俺は黙殺されるだけで、無関心の中でそのまま死んで腐敗してくだけだろうと分かってた。

 

だからいくら虐待されたり虐められたり無視される存在だったとしても、俺は「他人に自分の考えを伝える」「他人の考えていることを理解しようとする」「思ってることは出来る限り言葉に出して伝えきる」っていうのが絶対だった。そうじゃなければ、俺は即、死んでた。本当に、文字通り、命を落としていたと思う。

 

命を落とすなんて大げさなって思う人は、自分が恵まれた環境で育ったと思って感謝したほうがいい。世の中には命をつなぐためにサバイバルしてる子供が沢山いるんだよ。たった一回の僅かな食事にありつくためにさえ、人に笑顔を振りまかなきゃならない子供も沢山いる。

誰かとつながって、誰かに庇護してもらって、命を明日もつなぐことは、全ての人にとって当たり前のことじゃないんだ。

 

だからこそのコミュニケーションなんだと思ってる。コミュニケーション能力は刀のように研ぎ澄まされていなければ、即、死なんだ。

 

ちょっと前になるけど、俺が見かけた光景の話をします。

 

不倫ということについて、俺はなんとも言えないところがあって今は肯定も否定もしない。もちろん原則はNGだよ。

 

俺の知り合いの女性(26歳)がね、42歳の男性と2年に渡って不倫をしていた。夜の女ではない。平均以上の外見を持って、明るくて、人懐っこくて、気がとても利くいい子だよ。だからこそ、俺は「不倫なんて辞めなよ、もったないよ」っていつも言っていた。

 

そんなある日、その女性の元に、妻から電話がかかってきた。想像通り、不倫がバレてその抗議の電話だった。

そんな事態はとっくに想定の上だったので、女性は妻が強硬に言うとおりにファミレスで会うことにした。

ファミレスに行くと、妻ともう一人の女がいた。どちらも40代の疲れたおばさん同士。どうやら友達らしかった。どちらもほんと、言っちゃ悪いけどブスそのもの。不満が顔にへばりついたような顔をしている。

でもまあ、不倫していたのは自分の落ち度だし素直に謝るかと思っていた。

 

おばさん2人がかりで若い女性に、えいえいって言わんばかりに責め立てる。あんた、何をしてるのか分かってるの?とかキンキン騒ぐ。泥棒だの、育ちが悪いだの、若いからって何しても許されると思ってんの?とか。

 

はあ・・・と思いながら黙って聞いていたんだが、不倫がバレたのは女性の車に男を乗せているのを見られたからだってことが分かった。

「どうせホテルに行くところだったんでしょ」と妻が言う。

でも、実際は違った。

不倫相手の男は、重度の腰痛があって、自分で運転するのも辛いときがあったんだ。それでいつも通ってる病院に乗せていったりもしていた。肩を貸さないと歩けないほどのときもあって、きっとその時のことかもしれなかった。

 

腰痛。

そのことを言うと、妻の表情が変わった。

「うそつき!夫は腰痛なんてないから!」そう怒鳴った。

でもその表情は明らかに動揺していた。

 

きっと妻は自分の夫がひどい腰痛を持っていること、それに苦しんでいることなど知らなかった。

 

もっとあった。子供の頃、虐待されていたこと。父親との確執があること。今の仕事で嬉しかったこと、悲しかったこと、苦しんでいること、仕事の失敗で数百万だが借金ができたこと、子供とのコミュニケーションで嬉しかったこと、子供の成長で悩んでいること、子供のためにも今別れるのは躊躇すること。他にもいろいろと、女性は妻に話した。

 

妻の顔が青ざめていった。

 

女性がさらに言う。

男性が結婚したばかりの頃、奥さんに話したことがあると。自分が望んでいること、自分が理想としているコミュニケーション、家族へしてあげたかったこと。そのとき、妻はなんて言ったか。

 

「そんな面倒くさい話は聞きたくない」

 

そのことは妻は覚えてないようだった。明らかに動揺し、明らかに困惑していたが、それでも「訴えるからね!」とか捨て台詞を吐いて、逃げるように去っていった。コーヒーの伝票を女に押しつけて。

 

その後、女性はその不倫男とは別れた。というより、俺が別れさせたんだけどね。

 

この話にはものすごい学びがあってさ。

妻は、「妻」という立場しか主張できるものがなかった。男についてもっと深くまで知ってるのは不倫している女の方だった。

病気のことや、気持ちのこと、感受性の奥の話、コミュニケーションの量と質は不倫相手のほうが圧倒的に勝っていた。

 

女としてだけではなく、パートナーとして、友人として、毎日コミュニケーションを更新し続けた不倫相手の女性と

妻というオフィシャルな立場を手に入れたら、コミュニケーションのアップデートを止めた妻。妻はまるでウィンドウズXPみたいなもんだったって、女性があとで言っていた。

 

男性は、感受性が強い男だった。そして愛情に飢えていたから、してもらったことに感謝できるいい男だった。

ただ、こういう情の深い男性の「妻」は、少なくともあのおばさんじゃないと思った。

 

いや、もしかしたら恋人同士だった頃は違ったのかもしれない。何か好きなところがあったから付き合ったし、結婚もしたんだと思う。一緒にいたいと思ったからこそ。でもアップデートもバージョンアップも止めてしまったら、バグったり、ウィルスに晒されて最後は壊れてしまう。

 

この話を聞いて、同じように感受性の強い俺はドキドキしてしまった。だよな、と思った。

既婚者だけじゃない。恋人同士だって、そこにいるのが当たり前になってコミュニケーションを深く取ることを止めたら、そのうち壊れるしかない。

もちろん世の中にはコミュニケーションが苦手な人もいるだろう。言わなくても分かるだろうっていう状態が好きな人もいる。空気を読み合うことを求めている人もいる。何も考えないでただそこにいることが安心という人もいる。

言葉にして話すことが苦手、言葉で会話できなくて、困ったら黙るだけしかできない人もいるよね。

 

でもさ、そんな理由でコミュニケーションから逃げるなら、他人と付き合う資格はないと思うんだ。だって、所詮、彼氏も彼女も妻も夫も、他人なんだから。

コミュニケーションから逃げても一緒にいてくれるのは、この世の中でお父さんお母さんしかいない。おじいちゃんおばあちゃんしかいない。

 

誰かと一緒にいるのは、一生をかけてお互いを理解しようとアップデートし続けるため。18歳のときと、40歳のときでは環境も考え方も何もかも違う。そんなときでも、お互いコミュニケーションさえあれば、かけ離れることはないよ。コミュニケーションが深ければ、一緒にいた時間の長さは宝になる。誰もその絆を邪魔できない。不倫相手や浮気相手も誰も勝てはしない。

 

だが、コミュニケーションから逃げていれば、時間の長さは「飽き」と「マンネリ」になる。ひどいと「お互いへの苛立ち」にすらなる。

 

コミュニケーションってそんな難しいことじゃないんだよね。毎朝、自分の彼女や奥さんに「今日も可愛いね」とか「今日もステキだね」って言う男は、パートナーから素直な感情を引き出せて深くつながってるよ。

自分の彼氏や夫に、「今日もありがとう」って言える女性は、パートナーから深く深く大切にされてる。

それが付き合って一年とか二年だったら誰でもできるんだ。5年、10年してもずっと同じく毎朝、毎晩言える人は少ないよ。

 

俺の知ってる不倫中毒の35歳既婚女は、不倫する理由を「だって、もう夫にドキドキしないもん」とかほざいていた。

だから、不倫の初期のドキドキだけを求めてゾンビのように彷徨うだけなんだろ。一口目のビールの美味しさを味わいたくて、毎日居酒屋に行くおっさんと同じだ。最後は病気になって死ぬ。

 

結局さ、人と人って、それぞれが生きている以上、環境も変わるし悩みも増えていく。腹の立つことも、困ったことも増える。

その都度、お互いが言うことを止めたり、聞くことを止めたら、もう腐るのを待つだけだ。

 

パートナーが苦しんでいる病気にすら気づけない自分を恥じることになる。

もしかしたら恥じることすらできない人間になる。

 

それでも情の深い人間は関係を維持しようとするだろう。でも、コミュニケーション能力が壊死した相手には、感受性の浪費でしかない。

 

今朝、あなたの大切な誰かに「おはよう」って気持ちを入れて伝えた?

 

言っただけで気持ちが入ってないのなら、今日1日、さらにその関係は一歩腐敗が進むんだってこと、自覚したほうがいいよね。