ダメ女を捨てられない男の勘違い、という話

妻と夫が食卓のテーブルを挟んで座っている。どうやらお金の話をしている。給料日前になるとどうしてもお金が足りないのだ。妻は夫に内緒でクレジットカードからキャッシングをしていたのがバレてしまった。でもそれは妻の小遣いにしたのではなく、その金で光熱費を払ったり食事の買い物をした。その支払は翌月にまた請求が来るので、当然月末にはまたお金が足りなくなる。だからまたキャッシングをして支払いをすることになる。

そのうち、夫の車のローンの支払が遅れていると信販会社から督促の電話が入ってしまう。夫は慌てて支払いをするように妻に言うが、「お金がないから払えない」って言う。だから夫は自分の僅かな小遣いを全部はたいて信販会社に支払う。

ホッとしたのもつかの間、今度は妻に督促の電話が入っているようだ。ほどなくしてクレジットカードが使えなくなり、妻はキャッシングで家計を回すことができなくなってしまった。

一度、家の電話が止められてしまう。それはなんとかして払ったが、今度は子供の幼稚園の月謝を滞納していると夫に電話が来る。電気料金も滞納しているのか、供給を停止する警告の手紙が届く。数千円の支払いに困窮していき、夫は自分のクレジットカードからキャッシングして払うようになった。しかし、自分の給料はすべて妻が管理している。自分が借りたキャッシングの請求が来月来るが、自由になるのは月にわずかな小遣いだけ。

小遣いから支払いが出来るわけないんだから、来月末は今よりももっと酷い状況になるのが目に見えている。たぶん、また夫がキャッシングして払うことになる。キャッシングの枠を使い切ったら、もう後はない。そうなる前にまたクレジットカードを作っておくしかない。それも使い切ったら、自己破産するしか後がなくなる。または、その前に収入が大幅に上がるか、臨時収入が100万円以上あるか。どう楽観的に考えても、どちらも絶望的な状況だった。

 

キッチンのテーブルを挟んで妻と夫がいる。

夫は言う。怒りを抑えながら。「今度から俺が家計を管理するよ」

妻は話し合いをしようとしない。「は?なんで。嫌です」

「だって、お金の管理できないんでしょ?」

妻はムスッとした顔をする。「給料少ないのに苦労してやりくりしてるの私です」

「やりくりできなないじゃん。いくら借金あるの今?」

「関係ないでしょ」

「関係なくないだろ。どうしてそんなにいつもドンブリ勘定なんだよ」

妻は激高する。

「ドンブリなのはあなたでしょ」

「どこがドンブリなんだよ」

結局、話し合いにも何もならず、妻は自分のプライドを振りかざすだけ。何を言っても、負けまいと必死に言い返す。

そもそも、夫は自分の収入が少ないということを妻から言われ続けてきたが、それでも自分は大手の会社に勤め、同期より昇進が早いはずだと思っていた。ネットで調べても同世代の平均年収よりも200万円高い。住んでいる賃貸マンションの家賃も会社が支払っている。それなのに。

ももしかしたら自分たちの生活が贅沢すぎて給料では足りないのかもしれない。それは申し訳ないと思ってもいる。

だから、前に何度も、妻にパートの仕事をして欲しいと頼んだんだ。月に7万円でもあれば年間84万円。それだけで生活はもっと楽になるはずだし、貯金も出来るはず。

でもそれを言うたびに、妻はまたふてくされる。

「子供の面倒があって働けない」そう言う。妻は、結婚したばかりの頃、夫に相談もなく会社を辞めてしまい専業主婦になった。それでもまたパートでいいから働いて欲しいと頼んだが、「体調が良くないので働くと家事ができなくなるから」と言われた。いつ頼んでも、何かもっともらしい答えが帰ってくる。

結論は、「働かない」というだけだった。

それでも繰り下がって言うと、「あなたは私を養う気がないのに結婚したの」と言い出す始末。

「じゃあ」と夫は言う。「結婚する前に300万円も借金持っていたのはどうなんだ」

「結婚したいと言ったのはあなたでしょ」

何を言っても、認めることも、謝ることもできない妻。数年ぶりに働いた乳酸菌飲料の宅配の会社では、客から集金した金を使い込んだのが会社にバレたことがある。会社は刑事告訴すると言い、妻はオドオドするが返済する金はない。だからその時も夫が銀行からフリーローンを借りて返済したんだ。幸いそれは30万円くらいのものだった。そんな過去があっても、こんな態度しかできない。

結局、妻は通帳とカードを夫に投げつけ、もう別れると叫ぶ。

夫は思わず言う。

「福島のどん百姓は、みんなそうやってプライドにしがみついて貧乏になるんだろ」

妻の実家は福島の貧しい農家。家の掃除をする習慣もないような家。結婚するとき、夫の母親は反対をした。妻のことを、何も褒めるところが見当たらない、結婚すればもっと見えてくる、と言った。

夫は、明日もお金の不安と戦いながら仕事をする。職場では課長と呼ばれているけれど、プライベートではみっともない状況が続いていた。

 

ある知り合いの男性の話を書いた。

男性は今48歳。この頃はまだ20代後半だったので、今は子供も成人している。妻は自己破産をし、夫も債務整理をするまでいった。子供だけはふたりともしっかりしていて、奨学金とアルバイトで大学に行き、家を出て暮らしている。この両親と距離を置くように、正月ですら実家には帰らない。実家は古いアパートになって、もう家を建てるなどというのは無理だろう。夫は金銭トラブルで転職をし、かつての半分の収入しかない郊外の中小企業で働いている。役職などは一切ない。

妻は未だに働かず、でっぷりと中年太りをし、めったに化粧すらしない。

「おかねちょうだい」と夫にせがみ、その都度夫は5000円とか3000円をしぶしぶ渡す。そして妻は、自分の似たような田舎の友人に、「夫は生活費も渡さないDV夫」などと言いふらしている。

 

その妻についてどう思うのか、俺の知り合いである夫は俺の意見を訊く。

でも俺としては、お前の人を見る目の無さと、早くに別れるべきだという決断の先延ばしをした結果だろうとしか言えない。そんな女は世の中に圧倒的に大勢いる。努力の歴史を積み上げ、自分の環境を磨いていくっていう価値観を知らない女が。「人生はどうなるかわからない」って、そういう女は必ず言うもんだよ。いちいち考えても仕方ないとか、なるようにしかならないとか。努力の価値より、運命論に逃げる女。それは、ただ単に、努力することの痛みから逃げたいだけ。人は努力すれば必ず傷つく。嘘をつかなきゃいけない時もある。人を傷つけなければならない時もある。所在ない思いをすることも多い。帰り道に孤独に押しつぶされそうになることもある。そこから逃げる女は必ず運命論者になる。

 

そんなことより、自分のことをよく考えたほうがいいよと俺は言う。綺麗事はどうでもいい。事実、子供から嫌われてるだろ。父親のほうが。

そんなどうしようもない女でも、子供には母親でしょ。母親が切り取った日常しか子供は知らない。どうやったって、父親が何を考えてきたか、何を思ってきたかなんて、子供は一生分からないよ。

 

責任はもう果たしただろ。妻も子供も、距離を置けよ。

俺はそう言う。

 

「でもさー」と口まで出かかったような顔をして、男は無言になる。

知ってる。俺は知ってる。その夫が無能だということを。そしてまた決断を先延ばしにして持って年を取るんだということを。

どうしようもないダメ女のATMにされて一生を終わるということを。努力から逃げてるのはお前も同じ。だから同類だよな。

 

世の中には、毎日努力している女がたくさんいる。自分の理想のために捨てるものを決めている女も大勢いるよ。

人生の優先順位を明確に言えないと、誰だって気持ちのもやもやした部分に負けてしまう。プライドに負け、見栄に負け、今決断するという痛みに負け。そして、自分が本当は欲しくなかったものに囲まれて人生を生きるハメになる。

 

俺だってそうだ。

本当は別れてはいけない女を捨て、関わるべきではない女と長い時間を過ごしたり。理屈じゃないことも人生にはあるんだよって言い訳しながら、どうしようもない女に金を貸しては逃げられたり。

それは俺の能力とマインドの低さでしかない。

 

毎日努力を積み重ねてきた女と、一緒にいる。優先順位をはっきりさせられる女と一緒にいる。素直になれることに価値を持てる女と一緒にいる。

簡単な話なんだけど、弱い男にはできないんだよね。

中卒のシングルマザーとセフレになってるほうがずっと簡単で、自分が傷つかないから。厚化粧した飲み屋上がりのヤリマンを車に乗せて走ってるほうが、自分が楽だから。

そうじゃなくて。そういう女は今すぐ捨てるという努力ってあるんだよ。

深夜に無駄な残業をして苦しんでいるとき、冷たい缶コーヒーを差し入れしてくれた同僚の女性が昔いた。昔むかし、サラリーマンをしていた時代。優秀な大学を出ていて、仕事ができて、将来は間違いなく役員だろうと言われている女だった。

一方、俺は過去がありすぎる中途入社のカスでしかない。

こういう女性と付き合っただけで人生変わるんだろうなってあの頃思ったのを覚えてる。頭が良くて話が面白く。自分の弱さも苦手意識も、自然な言葉で表現できる。今すべきことすべきじゃないことがはっきりしていて、でも、イキっているようには見えない。

まあ、俺はそんな優秀な女性に相手にされるような男じゃなかったけどさ。

 

妻の愚痴を言っても仕方がない。別れられないのは男の弱さだ。子供が可哀想だからといっても、子供にも価値なしのオヤジだということにすら気づいていない。

もっと優秀な女と、きちんと人生を生きていこうとすることから逃げてるだけだ。