ボスの無関心は、そこを墓場にする。

30代の始めまで、風俗店の仕事をしていた。いろいろ経緯も事情もあって詳しくは書けないが、スカウトの仕事をしていた俺が経営者になった。経営者なんて言ってもカッコイイものではない。俺は借金の返済に追われ、昼の仕事のトラブルに緊張を強いられていた。夜の仕事は俺にとっての現実逃避だったのかもしれない。エロの仕事には、俺は天賦の才能がある。失敗したことは一度もない。何をやっても上手くいく。だから、夜の仕事だけが、俺には居場所になっていた。いっそのこと、風俗王にでもなろうかと何度も思ったけど、どうせろくなものにはならないと馬鹿にしていた。んなもんクソがやる仕事だと思っていたし。金があったらこんな仕事やんねーわって。

 

エロの仕事では、実は学びが沢山あった。人間の欲望の究極の姿だからね。金と、ちんぽまんこの世界はね。そしてその世界に入ってくる女性が沢山いた。天賦の才能がある俺のことだから、スカウトで苦労したことは実は一度もない。繁華街で惨めったらしくキャッチなんかしたことは修行以外では一切ない。最終的には俺から声掛けすらしなくなった。スカウトされたい女性が俺に連絡してくるという状況にまでなった。それがいかに嘘みたいな状態かって、すぐ想像がつくと思うよ。今はどうか分からないけど、その昔も、風俗で働きたい女性をスカウトするなんて出来ない経営者は絶対できなかった。プロのスカウトマンを雇って、金を使ってやっとこさリクルートしたんだよな。だってそうだろう。風俗店なんてろくな人間がいない。一度入ったら辞めるのは一苦労だ。自分のことしか考えてないクソばかりだし、次がないから辞めさせないように必死なんだよ。脅したりして。

でも俺はそんな苦労はしたことがない。スタッフを一年で辞めさせるのがルールにしてたけど、採用で困ることはなかった。

 

天賦の才能なんて大げさなこと言ったけどさ、実は天賦じゃないんだよ。ちゃんと理由がある。エロが上手くいくのは理由がある。ちゃんと。

これが俺の風俗での学びの一番大きい部分なんだけどさ。結論から言うとね・・・

「人のウェットな部分に興味を持っているか?」ってことなんだよ。暗くて、ジメジメしていて、狭いところにある感情。そこに興味を持っているかってこと。風俗に限らず、どうだろう、他人のことに全身の細胞で興味津々になれてる?なれてないと思うよ。

俺に才能があるとしたら、たぶんその部分だけなんだよ。

他人に興味を持つということ。

俺は人とベタベタするのは嫌い。ネチネチとした感情を絡ませるような恋愛をするのも苦手。仲良しごっこ友達ごっこをして群れるのは吐き気がする。でも一人の人間として接しようとするとき、俺は誰よりも強く相手に興味を持ってると思う。

 

店の中にいる女には、俺はうざい男っていう評価が一致してた。

彼氏いるのか?親はいるのか?親はどこに住んでる?きょうだいはいるか?高校は出たのか、大学はどうしたのか、就職したことはるのか、昼は何をしてるのか、朝は何を食べたか、生理は重いか、今欲しいものはなんだ、好きなブランドは、車は何乗ってる、子供はいるのか、どこに住んでる、誰と住んでる、家賃はいくら、夫はどこに勤めてる、訊くことがいっぱいあった。

そういうことに、女たちはウザいと言ったんだ。その頃いた男性スタッフは、「そういうのはプライバシーに立ち入ることじゃないんですか」って忠告までしたけど、俺は無視していた。答えが嘘でもなんでもいいんだ。そういう質問はとにかくしていた。

そういう興味のことがプライバシー侵害だとするなら、スタッフのモチベーションをあげようとすることすら侵害になってしまうよね?

もちろんそれだけじゃない。必要以上のことをたくさん知れば、スタッフがどんな生活をして、どんな苦境のなかでこの仕事をしているのかも分かる。今何を考えているかも分かるよ。

そうしたら、俺が言えることって、簡単で。「ありがとうな」って。

「俺のためにありがとうな」って、冗談みたいに言うと、うぜーとか言ってた女でも必ず笑ってくれる。

俺はお前の父親の次にお前に興味持ってるぞ、ってね。そういつも言ってた。

「いや、アキラは父親よりも私に興味持ってくれてるよ」って多くの子が言ってくれた。

 

夜の世界は情の世界ってずっと前に書いたけど、情って何で出来ているかって、「関心」とか「興味」への恩返しだよな。

群れのボスは黙っていても誰も忠誠を示してくれない。ボスが関心を持ってうざいくらい接してくれて、感謝してくれて、食いたいものはないかとか、行きたいところはないかとか、アパートの灯油は足りてるのかとか、金はあるのかとか、トラブってないかとか、何か俺に隠してる感情はないのかとか、新しいアパートは幽霊は出ないのかとか、そういうウザいことまで興味を持って接してくれること。

その積み重ねに情が生まれると思うんだよね。

情って、水みたいなものでさ、必ず上の立場から興味を示すのが当然なんだ。夜の世界の女は、男らしさ女らしさを古典的なまで凝縮した存在だから、男のことをボスと認められるかどうかを常にはかっている。ボスと認めるのは、自分に興味をもってくれて、自分に感謝をしてくれた男だけ。絶対に自分からボスに興味を持ったりはしない。絶対しない。

 

そりゃ女だから気まぐれとか、何かメンヘラちっくな感情のもつれで店に来なくなったりもするよ。「アキラさん、わたしリセットしたいんです」みたいなこと言って。

ふざけんじゃねーよこのメンヘラって言いたいのを我慢して、話を聞いてさ。愚痴でもなんでもいいから聞いて。それに興味を持って答えてあげて。

なんでそこまでするのって思うじゃない。普通。でもそれは甘やかすっていうのとは違う。ボスがスタッフに無関心だったら、スタッフは自分の仕事にも、自分自身にも無関心になってしまうだろ。そして最終的に、身勝手な人間に成り下がる。

無関心がはびこるところでは、スタッフは自分のカネのことにしか興味を持たなくなる。そしてその結果、全員の感受性が死ぬ。風俗じゃなくてもそういう会社ってあるだろ。無関心と無感動がはびこってる暗い会社。

 

俺はスタッフの子全員の、父親の名前を知っていた。風俗をやっている女性のほとんどは、父親との関係性に何か問題があることが多いからだ。これは男とは大きく違うところだ。男は父親との確執はほとんど人生に影響しない。でも女は違う。父親との関係性のあり方が、人生に深い影響を与えている。

父親の名前を頻繁に出して笑いに変えながら話題にすることが多かった。その関係性の中に俺がぐいぐい入っていくような感じが、女性との関係性を構築する秘訣みたいだった。

 

ボスの無関心は、その場所を墓場に変える。

ボスのウザいほどの関心は、情にまみれる居場所に変えるんだよ。