「てっぺん取りたい」とか寒すぎるだろ

なんか、もうそういう感覚は時代とズレているんじゃないかなって思った光景があって。

俺は今はもう風俗業とはほどんど縁がなく、昔の知り合いの経営者がたった2人いるだけ。それももう交流は途切れかけている。今でもごくまれに、知り合いと通して、スカウトをお願いされることもあるんだけど、基本断ってる。金の問題でも、立場の問題でも、倫理の問題でも、どれでもなく、ただ興味がない。

もうずっとずっと昔の話だよと思う。

 

でも、先日、知り合いから紹介されて「風俗業を始めたい」っていう男と会った。今は小さな飲食店をやってるらしいが、嬢は集められる、資金もそこそこある、条件は揃っているので、派遣型の風俗をやりたいらしい。

30代始めくらいなのかな。黒いシャツを着た、ちょっとやんちゃな、でも人当たりは良さそうなやつ。

夕方、日が暮れてきた頃に彼が経営する小さなバーで会った。

あー、厄介なやつと会ってしまって時間のムダだなーと思っていたんだが、そいつがこんなことを言うわけ。

「俺、これでてっぺん取りたいっす」

なんだよ、サムライかよって血の気が引くほど寒くなったが、そいつは顔を汗と脂でテカテカさせて熱心に語る。

前にブログで書いたけど、今時なのかな、事業計画みたいなのご丁寧に作ってるやつが結構いる。そいつもそう。どこで覚えたんかね、そういうの。

見てくださいって言うから、分厚い資料をペラペラと10秒だけ見た。こんな分厚い資料読むわけねえだろが。

まあ、成功したいんでしょう。てっぺんとか言うから。

「いいんじゃないすか?頑張って」

そう言うと、少し安心したみたいだった。バーのカウンターで大きなグラスにコーラを注いでくれて、それをゆっくり飲んだ。

 

でもな、と俺は思う。

この感覚、もう古いと思うよ、と。

 

風俗業の違法性のあれこれは横に置いとく、派遣型風俗の可能性についてもまあ横に置いといて、何をするかはともかくとして、そういう「てっぺん取りたい」みたいな感覚って、もうお寒いと思うよ。

 

え、努力するって悪いことじゃないじゃん、一番になれるように努力するって当たり前のことじゃん、って思うかもしれないね。

確かにそうだよ。でも今が1995年だったらね。

2017年の今、その感覚を持って「成功」なんて難しいと思う。

 

風俗っていう仕事で例えると、まあ古典的で伝統的な業界なわけだよ。やることは昔から変わってない、集客方法も雑誌かネットかっていうのも昔から同じ。ただがむしゃらにやって、それで一番になりました、てっぺんとりました、なんていうことが仮に出来たとしても、たぶんすぐにヘタる。

なぜなら、もっと大きな力と資金力で、もっと大量に労働力をぶちこんできたライバルに必ず負けるから。そうじゃなくても、自分の気力と体力がヘタれば、結果もヘタる。

 

エンジンがついていない手押し車を根性で押し続けて、手を離すと坂道を逆に戻っていくみたいな努力の仕方だってこと。その手押し車を押してる段階で、ライバルと喧嘩をしたり、誰かを負かしたり、誰かを出し抜いたりしているうちに、自分が一番疲れてくる。

クレクレクレクレ言い続けて、自分勝手に努力に酔った先は、多少実入りはあるかもしれない。でもそれはきっとすぐに終わる。嬢から嫌われ、客層は荒み、嬢を採用できないまま辞めていく嬢が増え、クレームが連発し、体力も気力も奪われ、多方面とトラブルを起こし、最後に腐るように店を諦めることになる。

 

2000年頃とか、それでも十分通用した時代もあったけどね。

風俗だけじゃなく何の商売でも、金を借りまくって人を増やし店を増やしサービスのライナップを増やし商品を増やし、売上を拡大して「てっぺんを取りました」なんていうのが優秀だと思われていたし。

今だとちょっと頭が弱いというか、あまり優秀じゃない人が誰かに焚き付けられて「本気になった」とか言ってやってるイメージだね。

ネットワークビジネスとか、歩合制の営業とか、そういう古い世界で今でもこれやって失敗してる人が多すぎるんじゃないのかな。そもそも優秀な人が多くはない世界でね。

 

この時代、自分にとっての幸せと、自分の周りにとっての幸せが両立しない努力は失敗する可能性がものすごく高い気がする。

そんなのあるかよ!って脂ぎったおじさんたちは説教するだろうが、ないと思ってる非常識に気づいてない人だと思うよ。

それに、田舎の小さな会社や個人が、量で勝とうとすると必ず負けるだろ。当たり前であって。スモールビジネスしてる人は、量でも順位でもシェアでも、そこに価値基準置いた瞬間負けが始まる。

 

昔、ある街に、意図的に嬢が5人しか在籍しない風俗店があった。指名予約とリピートだけでスケジュールが埋まり、新規はほぼ無理だった。一人あたり、嬢が入れる本数は3本。在籍は5人と決まっていて、6人になることもなく、人が減ればまたどこからかすぐに嬢がやってくる。価格は周囲よりもずっと高かった。

当然売上は物量が豊富な大規模店の足元にも及ばない。新規で入れない店のあり方にネットでは悪口も続出。情報誌に広告も出さず、ネットに簡単なホームページがあるだけ。嬢の写真もない。斬新なサービスも一切ない。

ほんと超スモールビジネスだったが、ちょうど10年が過ぎた頃、廃業した。すごい年収の嬢を何人も輩出し、経営者自身も廃業時には相当な財産を持っていた。

この彼とは今も交流があるが、センスが15年は先を走っていた人だと思う。彼もまた、風俗業にはもう縁がない。可愛い奥さんと2人でまた小さな商売をしてる。地味過ぎるが、どうせまた稼いでるんだろう。目立たない地味なセダンに乗って、廃業したときに記念に奥さんから貰ったオメガの時計をつけて、いつもデニムを履いている。そろそろ豪邸でも建てていいと思うだが、2階建てで32坪の中古住宅を買って住んでいる。

昔のスタッフたちが今も慕って交流してるっていうから、相当な人格者だろう。

本当の勝ち組ってこれなんだろうね。とても現代風だと思う。時代に合ってる生き方をしてると思う。幸せに成功するっていうとこの人を思い浮かべる。

 

てっぺん取りますなんて寒いこと言う前に、自分の幸せと、周囲の幸せを同時に考えたほうがいい。

欲しいのはてっぺんなんかじゃないはずだろ。

 

どうしても一番になりたかったら、大食い競争でもしていればいいよ。

 

戦わなきゃならない試合、勝たなきゃならない試合って、人生には3つしかないんだよ。