年の離れたカップルにおっさん達が言うこと

ぼくは二十歳だった。それがひとの一生でいちばん美しい年齢だなどとだれにも言わせまい。」~ポール・ニザン『アデン、アラビア』

 

20歳というのは不思議な年齢で、俺の20歳は今よりもずっと老成しているようで、実はほんの子供だったと思う。俺の時間を買っていく寂しい熟女たちと、身体を売って生きている若い女たちの狭間で、每日毎時間、傷つきやすい感情をすり減らすように生きていた。熟女から買ってもらったカシミアのコートを着て、かじかんだ両手をポケットに突っ込んで星のない空を眺めながら新宿の路地裏を歩いていた。遠くに明るく見える大通りには大勢の人とたくさんの車がひっきりなしに行き交っていた。20歳。俺に元に居着いてくれない恋愛と、シャワーの浴びすぎで乾燥した肌を引きずるようにして歩いていた。

 

昨日は成人式だったけれど、20歳たちを見て、あまりにもの幼さに驚いた。きっと俺もあんな顔だったんだろうか。あんな子供みたいな顔をした男の中に、あんな疲れた老人のような感情があったなんてきっと誰も想像できない。

俺は自分の成人式なんて行かずにセックスをしていた。今の時代でもあんな風に生きている20歳が何処かにいて、高層ホテルの冷たい窓から下を何も言わずに眺めているかもしれないね。

 

あの頃。ある日の夜更け。派手な仕事着を脱ぎ捨ててモッズコートに着替え、ヘーゼルナッツの香りのコーヒーをポットに詰めて、同じ年の女のプジョー205に乗り込んで埠頭まで走らせたことがある。女が何を言っても、ああ、うん、しか言わない俺だったけれど、埠頭から東京の夜景を眺めてコーヒーを飲んでいるときは心が落ち着いていた。色々言いたいことも愚痴もあったけど、耳を澄ませるように20歳という年を生きている2人がいるなんて、きっと世の中のおじさん達は理解できないだろうと思っていた。20歳の彼女は、47歳の男の愛人になっていた。それが何を意味し、彼女にとってどんな感情がそこにあるのか、俺は気づかないふりをしていた。

 

ときが過ぎ、32歳の俺。

20歳の女と付き合っていた。恋人という意味ではない。今風に言うならセフレみたいなものだっただろう。俺の人生はどん底だった頃、セックスに逃げ込んでいた。彼女は信じられないほどセックスがいい女だった。

そして、38歳の社長の愛人をしていた。毎月50万円とマンションをあてがわれ、每日猫と遊んで暮らしていた。2週間に一回くらいのペースで、俺はそのマンションに行ってセックスしていた。何から何まで高級な調度品ばかりで、ほとんどものがないシンプルな部屋だった。

昔から、愛人家業の女はこうやってあてがわれたマンションにセフレを連れ込むことが多い理由は知っていた。俺は気づかないふりをし、無邪気なおっさんを気取って、愛人の酒を飲み干してしまうなんてことはいつものこと。

 

女が俺に言った。

「38歳の彼氏がいるなんて言うと、おっさんたちは言うんだよね。みんな。」

「ああ、想像つく」

「カネ目当てだろって。」

「金目当て、ね。」

年が大きく離れた彼氏がいて、お金の援助とか必要なものを買ってもらえたりして、甘やかしてもらえて、それはそれで事実としてあって。俺みたいなセフレを引っ張り込んでる事実もあってね。それをおっさんたちは必ず言うわけだ。金目当てだろって。

女は言う。

「じゃあ、お前は宝くじが3億円当たったら、女自由にできんのかよって。」

できないよ。銀行口座の残高を見せて、ほら俺の女ならないかって言っても女一人見つからない。

カネ目当ての女なんて、プロの世界にはいないんだ。それはアマチュアのメンヘラの馬鹿ならいるかもしれない。でも、そんな「カネ目当て」みたいに見える年の差の2人の感情は、モテないおっさんたちにはきっと理解できない。

 

女はプラスチックの歯磨き用のコップみたいなものにブランデーを注いで、飲んだ。そして言う。

「わたしは、あの人がどんな思いでどんなことをしてお金を稼いでいるか知ってる」

 

ああ、そうだね、と俺は思った。そうなんだよな、と。

金っていうのは物語なんだよ。そこには必ずヒストリーがあって、物語があるわけな。悔しいこと、嬉しいこと、屈辱、喜び、感謝、安堵、失望、怒り、そういう自分の感情がべったりこびりついて、いま手元に届いているんだよ。

年の差があればあるほど、まともな女であれば男がどんな物語を持ってお金を稼ごうとしているのか、いつも想像している。理解しようとしている。男が自分にいつも話をしてくれるのでよく知っている。

まともな感受性を持った女であればあるほど、そこにやってきた物語に耳を傾けようとする。

 

「好きでなければ、愛人なんてできない」

そう言った。本当は愛人なんかではないってことを、自分では言わないわけだけど。だから、俺みたいな男を引っ張り込むしかないのだけれど。

 

今も俺は、20歳以上離れた女たちといつもいる。仕事でも、プライベートでもね。それを見たり聞いたりすると、俺と同世代のおっさんやおばさんは言う。みんなカネ目当てなんでしょ?ってね。

でもね、カネ目当ての女に、俺は自分の実印や印鑑証明を預けたりはしない。確かに馬鹿もいる。馬鹿は2秒で分かるので即、縁を切ってる。俺を誰だと思ってんだ。女の腹の中なんて全部見えてるよ。

俺は彼女たちに1円たりとも金を払わせないようにしてる。とにかく甘やかす。時に雷を落とす。彼女たちはそれでも付いて来る。馬鹿とか消えろとか言っても、それでも付いて来る。カネ目当て?俺なら、馬鹿とか言われて金もらいたくねえよ。

 

金だけではなく、すべてに物語を感じさせるのが大人の男の仕事だよ。若い女はそこにしかついてこない。

カネ目当てだろ、と言ってるオヤジが何を欲しがってるのか俺は知ってるよ。自分がモテないのは金がないからであって、自分自身は無価値じゃないと思いたいんだよ。でもね、残念ながら、金がなくてもモテる男はモテるんだよ。金がないという物語に感情を重ねることができる男はいる。

カネ目当てなんて言ってると、どんどん惨めになるだけだ。金があったって、まともな女は自由にならないから。せめて風俗店で高待遇受けるだけだな。

 

「好きじゃなきゃ、あの人といない」

年の離れた彼氏を持つ女たちがみんなそう言う。

当たり前のことを、おっさんたちはきっと忘れてしまうのかもしれないね。

 

歳が離れたカップルほど、感情はごまかしようがなく、もっともっとリアルになっていく。そこから逃げていく男女はいるけれど、そのリアルを受け入れたとき、おっさんには理解できない感情のなかで本当の幸せを感じることになるんだと思う。


f:id:playboyakira:20180214152519j:plain