お前に求めているのはサプライズじゃない

つい最近の話。

付き合いのある某研修会社の営業マンから売り込みを受けたとき、家に帰るとポストに葉書が入っていた。

郵便局が配達に来る時間でもないのにおかしいなと思ってよく見たら、投函したのは郵便局ではない、その営業マンだった。

そこには習字の文字でこうあった。

「さきほどはお時間を頂戴してありがとうございました!アキラさんのお話に感銘を受けました!お目にかかれたことに感謝です!」

つまり、数時間前に会った営業マンが、その場で葉書を書いて、俺の自宅のポストにわざわざ入れていったということね。しかも筆ペンを持ち歩いているんだろう。どうにもこうにも達筆風というか、相田みつおみたいな文字というか、「感謝」と大きく書いてあった。

 

俺がひねくれているのかもしれないが、俺は素直にそれを受け止められなかった。こんなことはよくあるし、俺も真似したことがある。

でもこうやって受け取ると、こう聞こえるんだ。

「ほら、感動したでしょ?会った日にポストに入れていったんだよ?こんなことする営業マンはすごいでしょ?思いが伝わるって思うでしょ?どう?感動した?」

 

悪いが寒いだけで感動も何もない。その日の深夜、その彼の会社のメールアドレスに返事をしておいた。

「葉書わざわざありがとう。恐縮なのだけど、会社の経費を使って今後こういうことは必要ないので遠慮いただきたい。葉書があなたの自腹だとしても、これを投函する時間に対してもあなたの雇い主は給料を払っているのだから、時間を大切になさい。」

 

感動の押し売りはいらないんだ。本当に迷惑なんだ、こういう押し売り。会社でこんなことを教えてるのが分かる。感動を売りましょうとか言ってるんだろう。期待以上のサービスをして感動していただきましょうとかね。

 

悪いけど、それは三流なんだよ。

 

これが男女間で例えてみれば、サプライズすればモテるとどこかで覚えた男みたいなもんだよね。

もちろん、嬉しいよね。俺も誕生日にサプライズで祝ってもらったことがあってすごく感動して感謝したけど、それは溺愛している彼女からのものだったからであって。別に好きでもない女からされても喜んだふりしか出来ないよ。

女性だったらなおさらそう思うだろう。好きでもない男に、はっぴ~ばーすで~とぅ~ゆ~♪とか言ってケーキ持ってこられても、顔を引きつらせながら笑顔を作るのが精一杯だろうな。

 

どう?感動した?俺のこと好きになった?とか押し売りされてもね、余計不愉快なだけだよ。

 

俺は、感動ってビジネスでは必要のない感情だと思ってる。感動より必要なのは、感心とか関心とか興味、安心であって。感動が一番脆弱で当てにならない感情だよ。

大切なのは感情より信頼だと思うんだよね。長続きして強固な繋がりって、感動より信頼だと思う。

少なくともサプライズでは、女性の信頼も、取引先の信頼も得られないんじゃないの。

 

信頼って、ポイントの積み上げゲームなんだよ。

そこでは、サプライズをやっても1ポイントでしかなく、電話の折り返しをきちんとしても1ポイントだし、ありがとうと言ったことも1ポイントなんだよ。

でも、電話をきちんと折り返すことが3回あって3ポイントだとしても、サプライズを3回やっても3ポイントにならない。下手したら複数回サプライズをしたらマイナスになってくことさえある。

 

もし車の営業マンだったら、習字の葉書を何枚送ってきても、誕生日にいきなりケーキ持ってきても、俺は次第に苛立ち注意することになる。俺が求めているのは、車が壊れたとき、電話したらすぐに折り返してくれて、じゃあすぐに代車用意するから来れますかとか、これないなら業者手配するとか、具体的にやってくれることなんだよね。何も事件が起きないなら、そのままほったらかしでもいい。でも電話すればあいつが何か力になってくれるって思えることが信頼だと思ってる。

葉書もカレンダーもいらないし、用もないのに「近くまで来たんで」とか顔出すのは辞めて欲しい。

 

不倫関係じゃあるまいし、非日常のイベントを繰り返してサプライズしても、信頼のポイントは積み上がらないんだよね。

 

インフルエンザで苦しんでいる時に「大丈夫なの?」って何度もLINEをくれたり、デートの帰り道に楽しかったよと言って渡してくれるコンビニのチョコレートだったり、

読んだ本の感想を教えてくれたり、今日一日の仕事のことを話してくれたり、

男が女性に対して気持ちを寄せてながらやってくれる、そんな些細なことのほうが、ずっとポイントが積み上がるんだと思う。

そりゃサプライズは楽しいよ。でも、過ぎ去ってみればそれは思い出の一つでしかなくて。大切だったのは、一緒に見上げた月のほうだと思う。その夏夜の時の流れとか、風の感触や、汗が引いていく冷たさとか。それを言葉にして思い出す時のぬくもりとか。

 

仕事にも、恋愛にも、感動なんていらないよ。

 

大切なのは、当たり前の感情を手のひらで温めるような些細な時間の積み重ね。