それは自立じゃなく、孤立

あなたは「自立する女」でしょうか。

それとも「根性の入った女」でしょうか。

今日はそういうお話。

 

10年以上も前の真夏、友人である20代の女性に相談を受けた。結構深刻な話らしく、こういうのはアキラに意見を訊くべきだと思ってと言われ、昼下がりのファミレスで会った。そこは分煙のはずなのにタバコ臭く、エアコンが効きすぎて窓ガラスが曇っていた。

 

話によると、職場の同僚にちょっとトロい既婚の女性がいるという。性格が素朴で悪い子じゃないんだけど、その夫がかなりの人物らしく。改造したピックアップトラックに乗り、小デブで、ジャラジャラと太いネックレスをぶら下げる男。職業は不詳。妻も夫の職業を知らないと言う。生活費は必ず入れてくれるし、誕生日プレゼントも欠かさない優しい夫。

でもある時、夫は何をやってお金を稼いでいるのか、妻は知りたがった。国民健康保険だったので会社員ではないのは分かるが、お金に困ってる感じでもないし、元々お金があるのか、どこかで商売をしているのか、ねえ教えてよって。すると夫は重い口を開き、自分は麻薬の取引で金を稼いでいると言った。

妻は少しショックを受け、職場の同僚の女性にそれを話した。

 

友人の女性は俺に言う。

「アキラ、これ、警察に言うべきだと思う?」

「まあ、犯罪行為ではあるのは確かだけど、直接聞いたわけでもないし警察に言うことでもないだろ」

「見逃せってこと?」

「いや、見逃すとかじゃなくて、そんな確証があるわけじゃないし妻が何か被害を被ってるわけじゃないんだろ。DVとか。何か盗んでるわけじゃない。」

「でも犯罪です、麻薬」

「そうなんだけど、そもそも、麻薬って冗談じゃないのか?本当は風俗業をやっていて奥さんが嫉妬深いから言えないだけかもよ。奥さんはなんて言ってるの」

「トロい子だから、旦那が変なことしてたーって言ってるだけ。」

「だったら通報することもねえじゃん」

「アキラもその子も国民の義務を放棄してる」

「は。お前ヤリマンのくせに何いってんの」

「関係ないし」

「その子がお前に話したのは、びっくりしたっていうだけで、裁きを与えたいって話じゃないだろうよ。何おまえ?」

 

とまあ、次第にお互いエキサイトしてしまい、喧嘩になった。友人の女性が言うには、妻は、夫が犯罪行為をしていたら警察に通報するのが自立した女性がやるべきことだと主張するわけね。

でもそんな正義マンな妻などいないだろうと俺は言った。夫が犯罪行為をしていようと妻は夫を守るもんだろと。殺人や強姦してるわけじゃあるまいし。

 

でも友人女性は主張する。「自立した女というのは、たとえ夫や彼氏であっても、多目に見ないのが当たり前」だと。「お互い、正しくないことは正しくないので、正義の行動をするべき」だと。そして、夫の不正を黙認して追求しない妻は、夫に依存した負け犬女だと。自立していない女だと。夫がいなくなるのが怖いだけで、夫のことを心配もしてない冷たい女なんだ、と。

 

なんだかね。その他人に罰を与えたい正義の脳みそはどこから来るの、他人をジャッジするのは他人のためって、違うだろ。お前の弱さから来てるんだろ。

だからお前、情がないとか言われて離婚したんだろうよ・・・と口に出して言ってさらに大喧嘩になった。

こういう話の常として、最後は抽象論でエキサイトするわけなんだけど。 

 

これは犯罪を知ったという極端な例なので本質がぼやけてしまっているが、似たような論調はたまに聞くなーと思った。

批判を受けている夫を擁護したり、夫の考えかたに染まっていく女性を見て、自立していないバカな女だと言う女がいるんだよね。

馬鹿にしないまでも、「彼氏の考えかたに染まっていく自分が許せない」

「男が悪いと分かっていて、無条件に擁護するのは男にとって良くない」

とか「夫と同じ感性になっていく自分は自立してないのでは」とか考えている人がいるよ。

どこからその客観的な正義が飛び出してくるのかって、その女の不安だかなんだろう。

これは彼氏が言いそうなことで私の考えかたじゃない、私は自分の意見を持ってない、だから私はだめなんだ、などと自分を責めているのかもしれない。だから夫に身を委ね、夫の影響を受けて人生を生きるなんて絶対拒否だと。

本当にそうは思ってないんじゃないのかな。相手に染まるほど相手を信じるということができないとか、染まっていいのか誰かが客観的に許可してくれないと不安ということだと思う。

夫が何を言っても、「そうね」と言うことは意図的にしない。必ず、「なるほどね、それが君の考えかたなのね、なかなかいい線行ってるけど私はそうは思わない」という枕詞をつけて意見を主張する。

私は自立した女なの、あなたと同じ人間じゃないの、と言うわけ。

 

喧嘩した友人女性はそれが自立する女性だと思いこんでいて、俺としては閉口したんだよね。

それは自立でもなんでもないし、魅力的な女性でもない。ただ結果的に愛されない、本気で人を愛せない、誰からも大切にされないというだけだと思うよ。

 

パートナーの好みに染まるっていうのは俺は悪いことじゃないと思ってる。趣味でも、仕事でも、考えかたでも、なんでも相手に染まって悪いことはない。それは自立してないことではない。

例えば俺だって、付き合う女性が和菓子が好きだったりしたら、好みを合わせて好きになるようにするよ。パサパサした食感は好きじゃないんだが、女性が美味しいって食べてる姿を見てるから、俺も次第に美味しく感じる。結果的に、俺も脳が変化していくわけだ。

そうやって好きになったものは俺はたくさんある。音楽の趣味もそう、ミュージカルや演劇の観劇もそう、服の趣味もそう、クラッチバッグを持つこともそう。女性から影響を受けて完全に染まったものは沢山ある。

パートナーが過去の男性から影響を受けたものを、そのまま俺に移植されることもある。俺は元々ブレスレットはしないタイプだったが、最近はよく着けている。それは女性の昔の彼氏の趣味だったものが俺に移植されたからだ。

ガキの頃、おばさんたちに愛を売る商売をいていた時代もそうだったが、それ以上に本当に好きで付き合った女性からはその後も残り続ける影響を受けた。

俺的には、それは楽しいことだよ。その女性のヒストリーを知ることができて、さらに俺も参加してる感覚があって。

趣味だけじゃなく、考えかたもそう。今まで出会った人に影響を受けて今の自分がいるんだから。誰しも。それが特に彼氏や夫だったらなおさらだよね。影響がないわけない。

じゃあ、そうやって脳みそを同期されることが自立してないかといったら、自立してるよね。普通に。自分の考えかたを持っているかと言ったら、持っているよね。

でもそれを不必要に主張するつもりはない。自分の考えかたなんて捨てることもあるし、パートナーの影響で本来の自分の意見を翻すこともあっていい。

 

自立なんてしなくても、生命体として1人なんだから。

 

生命体として1人しかいないと、この世界に自分の脳と体がたった1人で対峙していると本当に思えれば、自立なんてそんな価値はないと分かる。自立の意味がやみくもに自論を主張することなんかではないと気づく。

自立しなきゃ!なんてキリキリしなくても、人はそもそもが孤独だ。自分が誰かに染まっていっても、本質的な孤独も、個性も、絶対に消えはしない。だから誰かと一緒になって、お互いに染まっていく。

 

最近、素敵な夫婦に会った。

妻は中学の教師をしていた。夫は、俺と同業の風俗業でやんちゃな男だった。やんちゃな夫は自論が強烈で、極論を言う。まあそういうレトリックで語る癖があるだけなんだけどね。風俗業にありがちな男だ。

教師をしている奥さんは相当な美人で、夫が極論を言うたびに、笑いながら全部共感する。極端だけどそうね、と。口で合わせてあげるだけじゃなく、奥さんも同じ感性で、同じ言葉で意見を語るんだよね。

全く違う職業なのに、夫婦というのはすごいもんだなと思った。これだけ聞くと、ムキになる「自立ごっこ女性」は多いと思う。意見がない女じゃん、夫に媚びて女の恥!ってね。

でもこのやんちゃな夫は、ことあるごとに、妻を立てようとする。「ヨメがいるから俺がいるんであって」とか「できたヨメにいつも甘えてる」とかね。そのうち、この夫の自論なんて実はおくさんの意見なんじゃないかと思い始めてきた。

俺は、これは相当優秀な奥さんだなと思った。本当の意味で自立していて、余裕があって、家庭を舵取りしている主役は奥さんだよね。大人の女を久しぶりに見たと思った。この人生のあり方は言葉はあれだがとてもセクシーですらあり、さすが夫もモテる男だけあっていい奥さん捕まえたなあと羨ましかった。

絆の強い夫婦だなとほっこりした。

 

夫婦で財布が別の家庭って多いよね。それぞれの財布から生活費などを出し合う家庭。別に自由なんだけど、意見の対立が起きやすく、夫が浮気していることがものすごく多いんだよね。

不倫にまで発展しやすいんだよ。お金が自由になっているからという理由もあるけど、それ以上に、夫婦の絆が弱いんだろうなと思う。それは自立した夫婦なんかではなく、無責任で弱い夫婦のような気がする。

これ言うと怒る人いるだろうけど。

 

夫婦でも恋人でも同じだと思うけど、「意見」をすり合わせなきゃ「意見が一致」したり「お互いを理解」できないなんて、どこか未熟なのかもしれない。男は女に、女は男に、どんどん染まっていくのが当たり前だと思う。

影響を受けるという理屈以上に、脳みそが同期するかのように同じ感性を持つようになるのが当たり前だと信じてる。

それは弱さでも依存でもなく、強さであり、根性だと思う。女も男も同じだ。

 

自称、麻薬のディーラーをしていた例の夫は、知人女性が通報したかどうかは別として後に逮捕された。罪状が本当に麻薬だったのかは不明だが、わりとすぐに出所してきた。その時も妻は離婚などせず、今も仲睦まじく家族している。

それは根性だと思う。世間も親戚も親も、きっと夫を非難しただろう。でもそれはしょせん外野の声であり、夫婦の間の真実は夫婦にしか分からない。そしてどうであれ夫を信用して、家族でいようとする妻は強く根性のある女だと俺は思った。

 

友人女性の方は、離婚してからずっと男性関係はうまくいかないまま。自立した女性を男は嫌うと自分で言うが、違うだろ。根性も情もない弱い女が嫌われているってだけだ。

自立しているんじゃなく、孤立しているんでしょ、あなた。

人間は根源的にひとりぼっちで生きているのに、さらに孤立するような感性してどうするの。誰得なのそれ。

 

自立と孤立は違うぜ?

 

芸術家の岡本太郎の養女であり、実質の妻であった岡本敏子が言った言葉。

 

太郎さんが『男女』っていう素敵な字を書いたの。

男と女がくっついてひとつになってるんだけど、男が上。

だから「やっぱり男が上なのね」と言ったら、

「そうだよ、いつだって女が支えてるんだ」って言うのよ。ちゃんとわかってらっしゃる。

 

これだけ読むと最近のその筋のプロの方から睨まれそうだが、別にこれは男が女を支えているとも言えるよね。

支えるっていうのは、別に意見を対立させたり議論することではなく、お互いがお互いになっていくことで新しい世界観が生まれていくことでもあるんじゃないかなと、俺は恋愛経験で感じているけどね。

 

男を支える女、女を支える男。どちらも1人じゃなく、2人でひとつの人生だろ。同じ脳みそになっても悪くない。

それは決して楽なことじゃないのだし。2人でいることは、理屈抜きで根性が必要なこと。

それは強さ。

 

自立なんて弱さでしかなく、本当の強さは、二人でいる根性のほうだと思う。

 

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