夢という言葉も概念も必要ない

それはきっと時代の空気感のせいだったと思う。

バブルが崩壊した1990年代のはじめころから、「夢を持つ」という言葉があちこちで言われるようになっていた。夢を持って努力することで必ず叶うよ、とか。理想の人生にするために努力すると絶対叶うんだよ、とか。そういうニュアンスで。

その「夢」という言葉と概念は、多くは怪しげなビジネスにおいて実弾として従事する人間たちに強く受け付けられるようになった。

たとえば、ネットワークビジネス。たとえば、生命保険や不動産の営業マン。たとえばいかがわしい投資ビジネス。風俗店の経営やホストそういうビジネスの中で、夢という言葉と概念で脳の中の感性を強制的に変革させる光景があちこちに生まれたと思う。どれもこれも難しい仕事ばかりだ。拒絶を受け社会的にも軽くあしらわれるような仕事で、固定給もなく雇われて契約を持ってきたら高額の報酬が得られるかもしれないという状況に人を縛り付けるためには、夢というのは便利な概念だったよ。

そういう仕事では、入社とかビジネスを始める時にかならず「夢を公言しよう」とか「みんなのいる前で夢を公言してコミットメントしよう」とか言われる。もちろんそれをみんながやる。それも楽しんでやる。夢という名前で呼ぶ空想の話は楽しいからね。ホストをやって「将来の夢は、ビジョンは」とか言われて、ハワイに家を買って40歳で引退して遊んで暮らします!とか言うんだから、楽しいに決まってる。

もし「成功」したら年収1億円だって可能なんだから、夢を唱えるのはワクワクするんだよね。本当にそうしている人も目の前にいるんだし、なおさら。夢を予定に変えたら、それは必ず実現するよ!って耳障りもいいよね。

 

でも、実際はどうだろう。その夢を叶えた人はどのくらいいるんだろうか。夢を持ち続けたままその業界、そのビジネスに従事している人はどのくらいいるだろう。

実態は、圧倒的多数はその「夢」は叶わず、業界から去っている。あるいは夢なんか遠い存在のまま、冷めた感じでそこに続けているだけ。

 

俺も、10代から夜の世界にいたし、夢を追いかけて自営業になった。夢という言葉と概念を信じていたんだよね。でも実際の俺は、その夢を見たビジネスでは成功することはなかった。まったく失敗もしなかったけど、夢を叶えるには程遠い状況のまま時間が過ぎていき、夢を見ていることに選民思想すら抱くようになっていた。要するに夢破れた選民だったというわけ。

 

夢の概念を植え付けられた若い子を見るたびに、俺は自分のことを思い出す。

俺は、夢を持って金も時間もつぎ込んだビジネスでは上手く行かず、生活もままならなくなった。20代の終わり頃。家賃すら滞るようになって、俺がいやいや始めたのは、かつて俺が居場所にしていた夜の世界での仕事だった。昼はその稼げない夢のビジネスをし、夜は圧倒的に胡散臭く他人には言えない商売をする。夜の仕事には夢なんかない。ただ、支払いをしなきゃいけない、食っていかなきゃいけない、ボロボロになったジーンズも新しいものを買いたい、そんなことに必死でやった。

 

皮肉にも、そのエロの仕事では、たったの一回も失敗することはなかった。仕事を始めた初日から上手くいった。下積みは一日すらない。売れなくて苦しんだこともない。本当にすべてのことが順調に回り、金は口座にみるみるうちに積み上がっていく。昼の仕事では買えなかった便所の電球を交換し、しばらくしてなかった車のオイル交換をし、欲しくても買えなかった今どきの服をコーデ買いをし、家中の家電は交換され、スーパーで買物をするときも値札を見なくなった。スタッフ達に食事や生活支援をしてあげることができた。昼の仕事では見たこともない金額がが口座には入っていた。

昼のまともな仕事ではできなかったことが、いともたやすく出来るようになった。もちろんエロの仕事で「成功する」なんていう「夢」なんか持ってるわけがない。

 

その時でも、昼の仕事は手を抜かなかった。でも、夜のビジネスの粗利益と昼のそれを比べると、20倍以上も違っていた。昼の仕事は息をしているだけで経費が飛んでいく。家賃がガソリンなどの固定費に交際費に。

でもしつこいようだけど、昼の仕事では夢をまだ持っていた。昼の仕事はエロではない。誰が聞いても立派な仕事だった。それで「成功」したら、金だけじゃなく、社会的評価という俺にはずっと縁のなかったものが手に入ると思っていたんだ。

 

元チンピラホストじゃなく、風俗店経営者でもなく、エロ系スカウトマンでもなく、社会的にも認知される職業で成功したと胸を張れるんじゃないかと思っていた。だから夢を見たんだ。両親にすごいところを見せてあげたいという気持ちもあった。誇りに持てる息子になれるんじゃないかと思った。学歴もないし、病気も抱えているけれど、立派に育った息子だとね。したことはないけど、どこそこにお見合い話があっても受け入れてもらえるプロフィールとかもイメージした(笑)

でもそんな夢など一つも叶わない。

夢のひとつだった、「行きたい時に行きたい場所に行けるお金と時間の自由が欲しい」というものは、エロ系ビジネスのオーナーとしていとも簡単に叶ってしまっている。もちろん両親にはそんなことは言えるわけもない。

 

それは現在までも続いている。そのエロ系ビジネスは他人に譲ってしまったけれど、その時も俺は「まともさ」にこだわってしまっていた。金も稼げたしまともな世界でまた夢を叶えたいと思った。

・・・で、また失敗した(笑)

ほんとにもう、夢を持てば失敗する。失敗というか、器用だからそこそこは出来るけど、爆発的には成功しない。食っていけているだけ。それは自営業としては失敗なんだ。

 

最近ではもういろんなことを諦めている。諦めるというと聞こえは悪いが、自分とは何かをきっちり受け入れようとしている。

もちろん、エロ系ビジネスは今もいくつかあり、失敗は一度もしたことがない。相変わらず。まともであることは辞め、夢も持ってない。夢は持たないことにした。

夢など持たなくても、俺が若い頃から「こうありたい」という状態は、多くが実現してしまっている。今実現していなくても、すぐに実現すると断言できる。

 

だから、若い子には、夢を持つこと以前に考えることがあると言いたいんだよね。

 

最初から無理がある夢は絶対に叶わない。それは断言できる。努力で叶う夢はほとんどない。

でも、自分にできることは世の中にいくつかある。好きじゃないけど、得意なことが絶対にある。それは絶対に失敗しない。その先には「夢」として語っていた「こうありたい状態」が自然に叶うように出来ている。

 

好きなことを仕事にするというのも間違いだし、するべきことを好きになるというのも間違いだ。

得意なことを仕事にすれば仕事が嫌でも成功するよ。好きでも得意じゃなければさっさと諦めたほうがいいし、得意じゃなければするべきことでも辞めたほうがいい。

夢を無理やり持とうとしたり、誰かに押し付けられた夢の物語を語るより、自分がこうありたい状態だけを手帳に書いておけばいい。

 

そこに行き着く道はたぶん一本か二本しかなくて、びっくりするほどかっこ悪い仕事だったりする。親にも誰にも言えない仕事だけど、自分のありたい状態は職業職種以外は叶ったりするもんだ。

ずっと金持ち状態を続けてきて、もうまともに他人から見られることは諦めた。

 

これは発達障害などを持っている方によく分かっておいてほしいよ。

親が安心する手段じゃなくていい。親が安心する職業につかなくてもいい。エロでも何でも、犯罪じゃなければいい。

こうありたい状態を実現するための手段をさっさと見つけることをしてしまえば、夢など語らなくても理想の人生にはなるよ。