優秀なのは分かっているけどあなたは金を稼げない

10年以上も前の話になるが、俺はそのころ商売がひどく行き詰っていて、何かの解決策になればと思ってセミナーに行ってみたことがある。当時メールに流れてきていたメルマガの一つに、興味を惹かれるセミナーの宣伝が書いてあったんだ。

内容はもう忘れてしまったんだけど、当時の俺にとっての課題だった「安定した集客」みたいなものだったと思う。主催は聞いたことがない出版社で、講師は小さなコンサル会社を経営する40歳くらいの男のようだった。その手の業界では有名な人らしいがもう名前は覚えていない。金がない時代だったが俺も焦っていたので、投資だと思って数万円の受講料を振り込んだ。

当日の会場は確かテレコムセンタービルかそのあたりのビル。狭い会議室には200人くらいが集まっていた。高層階の部屋で眺めが良かったのは覚えている。セミナーでこれだけ集まればこの人はもう成功だろうと思うほどだった。

だが肝心の内容は全くといっていいほど覚えていない。たぶん役に立たないと思ったんだろう。でも唯一覚えているのが、「この人は頭いいなあ~」と思ったこと。嫌味ではなく、素直に。

講師の経歴も華々しくて、ある優秀な大学を卒業して、そのあと外資系のコンサル会社で活躍してから起業して現在に至ると。誰が聞いても文句の付け所がない優秀な経歴だった。話の内容は覚えていないものの、頭がいいなっていう印象だけを強く残したんだと思う。

「ああ、無駄だったな」と思ったかどうかは忘れたが、きっとそんな気持ちになりながらゆりかもめで新橋まで帰ったような気がする。

 

そのあとは当時の俺のことだから、いいケツした派手なセフレのお姉ちゃんを呼び出して楽しくやった。そこは覚えている(笑)どこかの寿司屋にも行った。泊まったホテルのベッドが柔らかすぎてエロいことをするには不向きだったのも覚えている。数万円払ったセミナーよりもそっちのほうが記憶に残るのが何かを象徴している。

 

最近になってあの時のセミナーのことをよく思い出す。頭いいなあっていう印象だけを残し全く役に立たなかったこと。こういうことって最近ものすごく増えている。頭いい人が全然通じないことを言っている場に出くわすことがものすごく多いんだよね。

今は、当時では考えられないほど「コンサル」を名乗る安っぽい輩が増えている。いや、優秀なんだろう、それは分かる。でもお前は何の役にも立たないよと、俺は白けて見ている。コンサルを名乗る人間と話をしなきゃならないとき、いつも、お前は誰と話をしてるんだと遠い気持ちになってしまう。二回目のアポは絶対に拒否してる。

いや、何度も言うけど、お前が頭がいいのは皮肉じゃなくよく理解できる。そこは間違いがない。でも、お前は何か大切なものに気づいていない。

 

俺は、俺にしか通じない言葉で話す人間が嫌いなんだ。俺にすら通じない言葉であ 俺と話す人間と同じくらい嫌いだ。その貧乏臭さにげんなりする。

俺もちゃんと勉強しているし知識もある、努力もしている。だから基礎素養は俺もしっかりあるんで専門用語で難しいことを難しく言ってくれてもちゃんと理解しているよ。でもここで話していることを、もし横で俺の女が聞いていたとして理解できると思うのか。理解できなような文脈と論理で話をするなら、たとえ俺が理解していても意味はないと思うよ。

 

簡単に言うと、お前商売人じゃねえだろってこと。

ラーメンうめーなーっていうだけの話をしてくれたらいいのに、ラーメン店のマーケティングはとか小難しいことを言うのは商売人じゃない。

簡単なことは簡単に言えと思う。たかがラーメンだ、スープに麺が入って、アレルギーも安全性もどうでもいいシンプルな旨い食いもんだ。たとえ店主がマーケティングごっこにはまっていたとしても、難しい言葉で難しく理屈こねくり回すのは優秀でもないし商売人でもない。

 

頭のいい奴が頭のいい奴だけを相手に難しい理屈をひけらかしても、金は稼げない。

金っていうのは、自分よりも頭の悪いやつが欲しがっているものを、理解できる言葉で売り込んでこそ稼げるもんなんだよ。なぜなら少数の頭のいい富裕層を相手にするよりも、金のない圧倒的多数の「大衆」が持っている金の総額の方が大きいからだ。世の中のマジョリティは大衆だ。大衆を相手にしないと金は稼げない。

大衆は別に知的でもないし、感受性が強くもないし、才能が抜きんでているわけじゃない。いたって普通の人たちだ。

その人たちに頭いいなあって印象を持たれたら終わりだよな。難しすぎるものを、15歳でも分かるくらいの易しい言葉とロジックで、しかも相手が欲しいものを選んで話す。それができるのが商売人の優秀さってやつであって。

 

そして、優秀と言われているやつらが当たり前だと思い込んでいる感性が存在するんだよ。

その優秀と言われている人たちの感性は「目標追求型」なんだよ。目標があって、それを達成するために計画して努力するっていう習慣があるひとたち。彼らは、投資をして、今の犠牲を払って、将来のリターンを得るって感覚が当たり前のことだと思ってる。

 

でもそれって普通じゃないんだよ。多くの人にとって、目標を追いかけるなんて当たり前じゃない。正直言ってそんなこと興味がない。目標とか理想って言われても、何くっせえこと言ってんの?って感じるよ。

別に今日のメシを食うのが目標っていうほど荒んだ人生じゃないけど、別に10年後になりたいものなんて考えたこともないし、夢なんて毎日布団の中で見てるわ!って思ってるよ。興味あるのは住宅ローンを払って子供の学費を払って少し貯金を作れるかどうかってだけ。

それを大衆と呼ぶとしたら、大衆が興味があるのは目標とか理想とか夢とかじゃなくて、今の生活が続いていくこととか、今感じている痛みとか不安を早く取り除きたいっていうことだよ。

マイナスをゼロに戻すか、今の水準をキープするか、それがリアルで興味があることなわけ。

 

だから商売では「投資家として理論を勉強していくと、あなたの理想の人生になります!」っていうのはお空に浮かんだクリームソーダみたいなもんでしかない。

「住宅ローンの金利はこっちが安いです、月の支払いが3000円安くなります」のほうがずっとリアル。似ているけど全く違う。

優秀な努力家はこの違いがピンとこない。

大衆は「自動化した収入システムをもって、自由な人生と自由なお金を手に入れましょう」なんてどうでもよくて、「あと月3万円稼げる時給のいいバイトあるよ」のほうが興味あるんだよ。3万円足りなくてキャッシングしたりしてるからね。

でも優秀な奴らは言う。いやいや、3000円とか3万円とかじゃなくて3億円稼いだら人生変わるじゃん!月3万円のバイトって、時間を切り売りしてるだけじゃん!って。

そんなこと大衆は興味ないよ。人生変わるとか夢とか興味ないと言うと、優秀な奴らは言う。「夢を持てないのは努力不足だ」と。

 

違う。努力不足じゃなくて、それが大衆というものなんだ。努力不足って言ってしまうともう自分は商売は稼げませんってギブアップしたのと同じ。自分が稼ぎたいと思ったら、大衆の痛みを取り除く「顕在化」した欲求を商売のネタにしなきゃならない。それが優秀さってもんでしょ。

バカはだめ、って言いたい気持ちは俺も分かるが、バカはダメだとしたら他に金を払ってくれる客がどこにいるのって考えたほうがいい。金も持ってない泣かず飛ばずの頭いいつもりの同類を相手にしても稼げない。

 

あの時、テレコムセンターの会議室にいた人たちは、全員優秀な人たちだった。でも優秀な人が、優秀(だけど金を稼げない)な客を集めている内輪受けの商売でしかなかった。

仲間内でしか通じない言葉を使って商売すると、必ず潰れてしまう。

 

コーラ飲んでビッグマック食ってる腹出たおっさんでも分かる言葉と理屈でどこででも話をしているやつが優秀な人間で、必ず大金を稼ぐんだ。