そう思っていたことは知らなかった

「あなたは愛に生きる人。好きな人に尽くす人。でも失くして泣いている人。」

 

32歳の時に4年以上付き合っていた女性に、言われたこと。

 

いまはもうとっくに30代になっているその女性とは、当時、毎日のように口論をしていた。お互いに気にくわない不満があったんだろう。口論の口調も激しかった。俺も死ねくらいは何度も言われてた。でも次の朝になるとまた連絡をし、普通に戻る。その時だけ笑顔で会話をし、午後にはまた裏切られるようなことを言ったりされたりして怒る。

何年もその繰り返し。

お互い、自分の人生が修羅場だったので、この恋愛に依存していたんだと思う。あまり良くない恋愛の仕方だった。俺も貢献したり、尽くしたり、愛情をかけたりする余裕もなく、いつも怒っていた。それでも離れることもできず、毎日のように一緒にいた。

 

その後、俺は、彼女と自然消滅させてしまい違う女性と付き合うことになった。今思っても失礼な交際の仕方をしていたと思う。何から何まで。

 

彼女は今はもう結婚して子供もいる。きっと幸せだと思う。

 

別れたあと、6年ぐらいして偶然出くわしたことがあって、少し話してまた意気投合して仕事で絡んだりしたこともあったけど、すぐに大ゲンカして再び疎遠になった。気を許しやすいけれど、本質的に相容れない性格なんだろう。

 

そして最近、俺も人生にも健康にも大きな変化が起きてしまい途方に暮れているときに、偶然また連絡が来た。

仕事がらみの連絡だろうし、俺も正直また喧嘩になるとか嫌だったので着信を無視していたんだが、何度もかかってくるから掛けなおしたんだよね。

メールやLINEが苦手な人なのでいつも電話で。

 

ベッドの中で電話をした俺の様子に驚いた様子で、近所のファミレスに呼び出された。

髪もセットする気力ないよ・・・と言ったんだが、人妻なので独身男の家に上がるわけにいかないし、寝ぐせつけたままで来てよと言われて、とぼとぼ歩いて行った。(事情により運転できない)

 

俺はその元彼女に、面倒臭そうに事情を喋った。

 

そして言われたのが

 

「あなたは愛に生きる人。好きな人に尽くす人。でも失くして泣いている人。」

 

俺が知っている激しい気性の彼女とは違うのは、家庭を持ったからなんだろうか。でも気を許すと喧嘩してしまうので、ありがとうとだけ言った。

 

「好きな人にとことん尽くすのは昔から知ってるよ。あなたは昔から自分がどんなに苦しくても頼らせてくれる人。お金が全然ないのにどこかからかき集めてきて、ごはん食べさせてくれるような人。わたしの記憶ではね。」

 

喧嘩ばかりしていたような気がするけど、32歳のころを思い出してそう話してくれた。

 

「きっと今、わたしがお金に困ってると言ったら、ATMから10万円下ろしてきて渡すでしょ?それが嘘だと分かっていたとしても。いまあなたの彼女じゃなくて他人の妻だとしても。」

 

俺は黙っていた。

 

「それがまして自分の彼女だったら?自分がごはん食べられなくなっても、全部あげるんでしょ。」

 

そうかもしれない。

 

「それがどんなにすごいことなのか、理解できるのはわたしもこの年になってからだよ。」

 

何も答えられなかった。

 

「死んじゃだめだよ」

 

会計で俺が二人分払っていると、彼女はそう言う。

 

俺は返事をしなかった。