スペックを正しく伝えるという能力

今回は営業や販売の仕事をしている人向けの話ですが、ご自身の何かに置き換えて読んでいただくと何か気づきがあるかと思います。

 

☆☆☆

 

数年前、こんな動画が話題になったことがある。

大勢に人に影響を与えるためには、与える情報の順番を変えるという内容だった。

 

当時は、なるほどーって思ったもんだった。

 

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アップルと、その他のメーカーと何が違うのか、当時絶好調だったアップルについていろんな人が語っていたことの一つ。

当時はなんか納得させられた気がした。

 

この人が言うには、アップルはまず「なぜ」と「ビジョン」を示し、そのあとにプロダクトの話を持ってきたと。こんなことが出来たらワクワクしませんかというビジョンの提案があって、それを実現するプロダクトを作りましたと、話を順番を変えたと言う。

今までのメーカーはまずプロダクトのスペックがありきで、それをどう使うかのビジョンの説明が大衆に響かなかった。

iPhoneiPod、当時魅力的だった製品になぜ世界中が飛びついたのか、それは製品ありきではなく、ビジョンという「なぜ」を魅力的に伝えたからだということ。アップルだけではなく、ライト兄弟もまず先に夢とビジョンがあったのだと。

 

これ、まぎれもなく本当のことだと思うし、大衆の中の「イノベーター」と「アーリーアダプター」を動かすことに成功し、市場を席捲したのも事実だと思う。

 

でも、起業家でも天才的な開発者でもない俺のような普通の人間が真に受けると危険だなと今は感じる。

美しくカッコいい今風の話だけどね。

 

今風ではあるけど、もしかしたら手垢のついた見覚えのある風景に繋がっていく話かもしれない。

 

俺のような平凡な人間が対峙しているのは世界的なマーケットでもなく、最先端の技術革新でもなく、誰かに安価なものを大量に売るという「一般大衆の世界」だ。

売ってるものだって、ごくありふれた、代替えのきくコモディティでしかない。その仕事をしている自分だって代替えがきくわけで。おそらく最終的にAIに仕事を奪われるような小さい存在だ。

 

そんな俺が、煙草を吸って10年ローンで買ったワンボックス車に乗り、休日は家族で郊外のショッピングモールに出かけるタイプの人達に、起業家よろしくビジョンを語って何か大きな影響力を発揮できるわけがない。

 

どこかの優秀な人と巨大な会社がiPhoneを魅力的に、爆発的に売ることが出来たのだろうが、俺のような凡人が出来るのはそんなかっこいいことではない。

 

大衆の平凡な世界で物を売る人達に大切なのは、「ありのままにスペックを語る」という能力だと思う。まずビジョンやなぜを語るのはかっこいいけれど、まずやるべきことはそうじゃない。

 

「こんな世界を実現したらワクワクするでしょう?だからこんな製品が生まれました」ではなく、

「Aという製品の特長は、〇〇と〇〇です」とスペックを正確に間違いなく伝える力のほうが大切じゃないのかなと思う。

 

でも昔から営業マンはそれを悪いことだと教えられてきた。

 

「このかっこいいベンツに乗ったら、お姉ちゃんにモテますよ、この値引きでどうですか!」という、どうですか営業が美談になりやすかった。

営業マンの世界は情緒の世界なので、この傾向が強い。

 

逆に、ベンツのスペックをきちんと伝えようとする人は、「客はそんなこと興味ねえんだよ」と、ベテラン営業マンに叱られた。

「客は馬力なんか興味ねえんだよ」とか

「客が頭あっつくなってるうちに契約させろよ」とか

「客は難しい知識なんか興味ねえよ」とかね。

 

残念ながら、それは2000年頃までの世界の話だろう。

今の若い営業マンがそれで売れているかって、大苦戦している。

先輩たちは言うよ。客はネットで知識を頭に入れてきてるんだし、なおさらスペックの説明なんか意味がない、これを手に入れたらどんな気持ちになってワクワクするかを熱く語れって。

なんか納得するようでいて、結果的に売れないんだからそれが間違いなのは明白で。

 

知識はネットで仕入れられる時代だからこそ、実はスペックを客観的に語る必要があるんだよね。

専門家の仕事は、客観的にスペックを横に並べて、論理的に客に当てはめていくことだと思う。

この車は安全性能を高めるためにこう、ボディ剛性を高めるためにこう、テールレンズがこの形なのはこういう理由、などまずは丁寧にスペックを説明することが先決で、それが客にとってどんな問題を解決してくれるのかを理路整然と説明する。

これ、販売の現場ではもしかしたら無粋とすら思われてきた。

 

うわ~ベンツだ~かっこいい~っていう、雰囲気だけでお客さんが酔ってしまってるところに、発泡酒もビールも関係ねえみたいな乗っかり方をして売り切ってしまうような、未熟な雰囲気が今も若い人たちに押し付けられている。

 

 

相手が雰囲気だけでは酔ってくれない場合は、とたんに弱くなる。

「ベンツが高いのはブランド料でしょ?クラウンに劣る性能でしょ?」と言われたら、何も言えなくなる。

「い、いや、おねえちゃんに。。。もてます。。。」とか言って、セクハラじみてるとすら言われかねない。

比較された後からスペックを語り始め、もう聞く耳を持ってもらえないとかね。

 

スペックを語るタイミングを逃すと、必ず後手後手になってしまう。

 

一般大衆では、ビジョンに酔ってくれない人のほうが圧倒的に多いんだよ。

ビジョン語りを美化しすぎると、人に伝えられない、人に受け入れてもらえない人のほうが増えてしまう。要するに売れない営業マンになる。

その先には、自分はビジョンに魅力がない人間として本質的に自己嫌悪に陥る危険すらあるよね。

 

正しいスペックの説明が、その製品の特性を理解してもらうことになり、ほかの製品との差を比較する材料になる。

本来、当たり前の姿勢だよね。

 

そのうえで、そのスペックが、相手のどんな問題点を解決することに役立つのかを提示する。

本来、それが正しいプロセス。

 

まずは相手が抱える問題点を明確にする。

スペックを理路整然と伝える。

それによって問題が解決されるという提示をする。

 

情緒面ばかり美化された世界では、営業マンの自己重要感を傷つけかねないよ。

その職業の格も落としてしまう。プロ意識も育たない。

 

人間関係も同じことが言えるかもね。

あまり情緒にばかり訴えられると、相手も苛立ってくるよ。