真面目でこだわりがない人の買い物

これを「スキル」と捉えるか、「悪意」と捉えるかは自分次第だと思う。

 

本日のお話は、「洗脳」について。

 

俺は学者ではなく単なる底辺ブロガーなので、学術的な話は出来ない。でも、こんなことってあるよね?という話をするので、ご自身の何かに置き換えて読んでみてください。

 

昔からの友人に、年の離れた弟がいる。この弟が最近、住宅を買いたいと思っているらしく俺に相談に乗って欲しいと連絡が来た。

それで俺もめずらしくその弟のアパートに行き、話を聞くことにした。

 

住宅メーカーはどこを見ているのか、いくらの予算で、どのくらいの大きさの家が欲しいのか、みたいなことを聞いていた。

弟は随分と勉強をしているらしく、気密性と断熱性の測定値がいくら以上で、熱交換換気システムがあり、その交換効率が何パーセント以上で、断熱材は何を使っていて、厚さはこのくらい、サッシはトリプルサッシで熱貫流率は0.8W/(m²・K)で、太陽光は10kw、蓄電池の容量はこのくらい、基礎断熱で、などと並べていく。

 

「へえ、随分と高性能だけど予算はいくらなの」と俺が訊く。

「建物だけで諸経費を入れて2000万円以下。」と弟。

「無理だろ。」

「それ以上は借りられないよ。」

「奥さんと収入合算して銀行で審査してもらって、もっとまともな家を建てろ。」

「うちのやつが、若い頃自己破産しているから無理」

「それなら、最低限の性能がある小さな家にしないと。」

「性能に妥協は良くないと思うんだよね。」

 

 

それで、どんな家にしたいの?と、俺はもう一度訊いてみた。

 

「どんな家かはまだ決めてない。」

 

俺はそこまでの会話でいろんなことに気づいてしまった。

誤解がないように言うが、この弟は子供の頃からおとなしく、素直な性格をしている。別にオシャレでもないし、女性にモテてたわけじゃない。7年とか付き合った彼女がいまの奥さんで、奥さんもユニクロの服をいつも着ているような人だ。素直で優しい人。自己破産したのは実家のトラブルが原因らしい。

 

「お前さ、俺の想像だけど、〇〇(住宅メーカー)で話を聞いてきただろ。」

「え、何で分かるの。」

 

やっぱり。

素直な男がこうなってしまう典型パターンなんだよな。

 

家の性能のスペックだけを並べ、アピールをされる。その話に圧倒されて家に帰ってくる。初めて知った知識についてネットで調べ始める。YouTubeなども見る。やっぱり当たっていた。

「この性能がない家は、建てちゃいけない」と思い始める。

どんどんマニアックになっていく。次に営業マンに会う時にはある程度の知識がついていて、男は質問をする。するとさらに知識が補強されて、満足感が増す。

 

営業マンは言う。

「ぜひ、他のメーカーも見に行ってみてください。粗悪な家ばかりでびっくりしますよ。」

その通り、他社も見に行く。そちらの営業マンに質問をする。

「気密性能の数値はいくらですか?」

「測定はしていません」

・・・ありえない!とんでもない会社だ!

 

素直で真面目な男ほど、こういう状況に陥る。

 

簡単な話なんだよ。

主体性もこだわりもない真面目な人間に、強い言葉でスペックの意味を植え付けると、価値判断の基準が出来上がってしまう。

その基準でしか勉強しなくなるし、物事が目に入らなくなる。基準を外れたりする人、軽く見る人を強い言葉でバカにし始める。

 

恋愛でも似たような人がいるよね。やはり多くは真面目な人ばかりだ。

 

自分の中に基準を植え付けられたことに気づかない。それを「洗脳」とも言うんだよ。

 

友達の弟に、提案されている間取りを見せるように言うと、恐る恐る出してきた。

 

25坪。主寝室が四畳半。ベッドは置けない。子供が3人いるが、全員に個室はない。クローゼットは夫婦で一本の棒だけ。そもそも掃除機さえどこに置くのか分からない。

リビングはダイニングテーブルを置けばソファは置けなくなる。

 

「お前さ、これ、奥さんのパンティすらどこに仕舞うんだよ。ホームセンターから収納ボックスでも買ってきて廊下に置くのか。」

「性能の数値が悪いと換気も効率が悪くなるよ。」

「バカじゃないのお前。何人家族なの。これなに、気密断熱に優れた熱交換換気付きの小屋か。」

「・・・この蓄電池は30年壊れないっていうし・・・」

「どんな夢のリチウム蓄電池だよ。リチウム電池の上に布団敷いて寝ろよ。」

 

営業マンも悪質すぎる。壊れない機械があるのかよ。

もうバカすぎてどうしようと思ったが、根気よく話を続けた。

 

そもそも真面目過ぎて、買い物を楽しんだことがないんだろう。買い物について哲学が全くない。

 

買い物っていうのは、生き方を選択することなんだよ。こんな生活をしたい、こんな気持ちになりたい、こんなことが出来たらいいな、そんな理想に近づけていくために選択を繰り返すのが買い物。

 

まず人生が先にあるの。

服だってそう。流行っているからではなくて、自分がこんな気分になりたい、こんな場所でこんな印象を与えたい、こんなリラックスした時間を過ごしたい、みたいな理想があってこその服選びでしょう。

まさか、トレンドがこれだからとか、そんな理由では選ばないよね。

 

いや、選ぶ人たちがいるんだよ。そして必ず、そのトレンドに沿っていない人をダサいとバカにする。

人生の理想をいつも考えていたら、自分にふさわしいものを選択するだけの作業なのに。

 

この弟の件も、家族とどう過ごしたいかっていう理想がないまま、スペックだけを追いかけていた。営業マンも悪意があるのか無責任なのかその両方なのか。それともそういう教育を受けているのか。結果的に真面目な人間に間違えた価値基準を植え付けてしまった。

この先は後悔と不幸しかない。

 

性能はもちろん大切だが、まず自分がどんな生活をしたいのか夫婦で話し合えよと言った。でもそんな話をしたことがないから無理なんだよ。

高性能な小屋に、モノを溢れさせて生活するだけだ。

 

出せる金額が限られているのは別に恥ずかしいことではない。大切なのはその中で何にお金を使うべきなのか考え抜くこと。それは生き方や感覚に関わるものであること。

絶対に優先はスペックではない。スペックや耐久性は大切だが、そこだけオーバースペックにしてもしょうがない。リチウム電池の上に布団を敷くわけじゃないんだ。

 

洗脳というのは、真面目でこだわりがない人が受けやすいのはこんな背景がある。

 

恋愛でも、宗教でも、買い物でも、強い価値観を植え付けて価値判断基準を支配する空気感には敏感にならないといけない。

好きであることと、洗脳されることとは似ているけど、全く別のことだよ。

 

逆の立場で考えると、こんな洗脳の仕方を悪用する人間ではいたくないものだけど。